2006年度第3回研究会
マレーシアにおける海サマ人のイスラーム化
――東南アジア・イスラームの動態的理解の試みとして

長津 一史 さん(東洋大学社会学部)

□ 日時 2006年7月3日(月) 18:10〜19:40
□ 場所 東洋大学白山校舎 5304教室

□ 要旨 東南アジアには、インドネシア、マレーシアを中心におよそ2億人のムスリム(イスラーム教徒)が住む。その数は世界のムスリム人口の2割弱に相当する。東南アジアのムスリム社会は、1970年代以降、世界的なイスラーム復興潮流の波及とそれにたいする国家の干渉が交錯する過程で著しい変容をとげた。これまで東南アジアのイスラームにかんする社会学的研究は、組織化されたイスラーム復興運動の活動内容や、運動を担うイスラーム知識人の政治的思想、イデオロギーなどを明らかにしてきた。しかしながら、イスラーム復興運動とは直接的なかかわりをもたない「ふつうのムスリム」の社会変容、特に1970年代以降のイスラームをめぐるマクロな歴史的潮流におけるその動態については、いまだ十分な研究蓄積があるとはいえない。
 本報告ではこうした研究動向をふまえつつ、マレーシア・サバ州南東岸に居住する海サマ(バジャウ)人を事例として、マレーシアにおける「ふつうのムスリム」と国家とのイスラームをめぐる相互作用のダイナミズムについて考えてみたい。具体的には、1950年代半ばに始まる海サマ人のイスラーム化の歴史過程を跡づけ、その過程を国家、地域双方のレベルのイスラームをめぐる社会的文脈に定位して相関的に理解することを試みる。本報告でいうイスラーム化とは、かれらがイスラームを受容、実践するようになる過程にくわえ、かれらが地域社会でムスリムとしての認知を獲得していく過程を含む。
 対象地域であるサバ州南東岸は、フィリピンのスルー諸島と国境を接している。海サマ人は国境の両側、つまりマレーシアとフィリピンの双方に居住している。海サマ人は、いずれの国家領域においてもイスラームを受容しているが、フィリピン側ではいまも他の多数派ムスリムから「正統ならざる」ムスリムとみなされ続けている。しかし、マレーシア側の海サマ人は、地域社会で広くムスリムと認知されている。なぜ、このような差異が生じたのか。マレーシアの海サマ人はいかにイスラーム化し、ムスリムとしての認知を獲得したのか。報告では、マレーシア国家によるイスラームの制度化――イスラームにかんする法制や教育システムの整備――と、それにともなって進行したイスラームをめぐるローカルな社会秩序の再編というマクロな文脈に着目して、これらの問いを明らかにしていく。

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