2010年度第2回研究会
女の仕事に隠れる「見えない仕事」
――ウズベキスタン刺繍制作における再ジェンダー化

今堀恵美さん(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニアフェロー)

□ 日時 2010年6月21日(月) 18:10〜20:00
□ 場所 東洋大学白山校舎 5401教室

□ 要旨
  本発表は中央アジア、ウズベキスタンの代表的な女の仕事刺繍制作に、表立っては「見えない」形で携わる男性の働き方に焦点を当てたものである。
 「見えない仕事(Unvisible work)」とは生計に寄与する有償労働であるにも拘わらず、家内で行われるためその価値が正当に評価されない仕事を指す。この用語は通常女性が行う家内の有償労働を可視化させ、その意義に注意を促すものである。だが「見えない」=価値が正当に評価されない仕事は女性限定ではなく、戸外の有償労働に隠れた男性たちの多様な働き方を解明する概念としても発展させられよう。本発表ではウズベク刺繍制作で補佐業務に携わる男性の「見えない」働き方に焦点をあて、その特徴と意義の解明を目的とする。
 中央アジア、ウズベキスタンはイスラーム圏でありながら旧ソ連の社会主義改革の恩恵ゆえに、ソ連時代にはあらゆるジェンダーが就労の権利と義務を有した。だが1991年独立以降、経済状態の悪化から失業者が急増、その割合は女性に偏った。すなわち社会変動が女性を家内に、男性を戸外に振り分けるという再ジェンダー化をもたらした。だが女性の中には国営企業への就業ではなく、内職や手工芸を含む個人業で収入を得る者も現れた。その一つに刺繍業がある。
 刺繍は20世紀初頭まで女性の持参財装飾の技法として発達し、「女の仕事」とされてきた。独立以降の観光化で需要が高まった刺繍は高収入を女性事業家にもたらした。事業は男性が担うとされがちな村落部において、「刺繍は女の仕事」という文化的規範が女性事業家の収入を保障したのである。
 だが主たる制作の場が家内という刺繍を事業化する過程で「見えない」形で事業化を支えたのが事業家の男性家族成員であった。発表では3名の事業家の夫を比較することで「見えない」働き方にある差異と、補佐というあえて「見せない」働き方の意義を論ずる。それは再ジェンダー化が進行する現実の中で、ジェンダーによる役割分担が行われつつも、その配分を均等に割り振ろうとする文化的工夫の一環と考えられるのである。


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