2021年度第1回白山人類学研究会(オンライン開催)
境界をこえる相互行為

波佐間逸博(東洋大学・教授)

□日時 2021年5月17日(月)18:15〜
 今回も、zoomミーティングを利用してオンラインで開催します。
 参加ご希望の方は以下のフォームからご登録ください。
 例会前日に参加のためのzoomミーティングのリンクをお送りします。
 https://forms.gle/SZjNS9Zh8rKBS58z9
 研究会開始の5〜10分前にログインしてください。

□要旨
 この発表でわたしは、ナイル系遊牧民に焦点をあわせ、かれらの生業の基盤をなす家畜と交わす相互行為と、民族間のコンフリクトの場にたつ敵同士の相互行為をとりあげ、このふたつの一見したところでは無関係に思える相互行為どうしをむすびつけて考えてみる。  家畜は、人間の利益のため捕獲状況で増殖させられ、その生を人間は統制する――家畜をめぐる教科書的な定義にもあらわれているように、技術知を有する私たちは、自分自身を超越者とみなすことが間々ある。わたしがフィールドワークをつづけているナイル系遊牧民もヤギやウシの身体から日々の食糧をえているが、かれらの直感のなかで、家畜たちは、人間の背景にかすんだりせず、たしかにそこに「いる」という感じをただよわせている。動物界をめぐる民族分類という、カテゴリカルで分析的な思考は、人間と動物のあいだに分割線をひいている。しかし、家畜と相まみえる遊牧民たちは、種のちがい、動物の境界をこえた、いわば〈認識の手前〉で、かれらとかかわりをむすんでいる。  レイディング(家畜略奪)の場面で、異民族は敵として出会う。本来なら戦場は敵を殺し、仲間との一体性を証明する場である。しかし、かれらのライフヒストリーは、「おなじ民族である我々はおなじ民族であるがゆえに一体である」という共通理解に、敵を救う助命が亀裂を走らせていることをほのめかす。  略奪者は、命を乞う者の声に、道理をはずれた発話にさらされる。声が、対面するわたしとあなたがともにいる感覚を呼びさまし、たがいが感応する。それはまるで(言語的エイジェンシーのずっと手前で)動物がわたしの声にこたえ、わたしが動物の声にこたえるのとなにもかわりはないとでもいうかのようである。  発表では以上のような事例を提示して、動物との関係としてのエコロジーが、人間との関係としてのエスニシティを形づくる可能性について議論したい。



白山人類学研究会世話人
代表:長津一史
運営委員: 左地亮子 ゴロウィナ・クセーニヤ 山田香織 
波佐間逸博 田所聖志
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