2021年度第4回白山人類学研究会(オンライン開催)
「感情」と「血」の経済
−スマトラ島ミナンカバウ村落社会における換金作物の栽培と流通をめぐって



西川慧(東洋大学・助教)

□日時:2021年11月22日(月)18:15〜 (オンライン開催)

 今回もzoomミーティングを利用してオンラインで開催します。
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 https://forms.gle/F7WhpA2YhUjtJLoT8
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□要旨

 本発表の目的は、インドネシア共和国西スマトラ州におけるミナンカバウの人びとを対象として、新たな換金作物の買い取り価格が高騰していくなかで親族関係・社会関係がどのように変容していったのか考察することである。
 発表者の調査村落では、1990年代後半から村の「共有地」を利用してガンビールと呼ばれる換金作物の耕作が行われている。ガンビールの買い取り価格は2010年代から高騰し、利益を求めて多くの人びとがガンビール耕作に参入していった。現代インドネシアの共有地をめぐる先行研究では、その共同性を強調する理念にもかかわらず、実際には生産手段の私有化と、その不均等な配分のために非人格的な資本主義的関係が出現していることが論じられている。しかし、調査村落で見られたのは、仲買人から生産者への融資と母系親族関係を中心とした紐帯で結びつくパトロン=クライエント関係の拡大であった。
 このようなパトロン=クライエント関係は、東南アジア農村研究の文脈ではリスク回避による生存維持の選好と、互酬性にもとづいた人格的なやり取りに特徴づけられるモラル・エコノミーの代表例として論じられてきた。しかし、調査村落で見られた仲買人と生産者の関係は、生存維持ではなく富の蓄積と消費を志向するものであった。彼らの関係を読み解くためには、人格的なモラル・エコノミーと非人格的な資本主義という二項対立から抜け出す必要がある。
 本発表では、親族関係と社会関係に関する民俗観念に注目することで、現地の人びとの視点から上記のパトロン=クライエント関係を理解することを試みる。なかでも母系親族を結びつける「感情(perasaan)」という観念に注目して仲買人と生産者のあいだで行われる取引を分析する。その結果として明らかになるのは、母系親族を中心とする人格的な社会関係が富の蓄積と消費のために動員される「「感情」の経済」である。なお、今回の発表は以下の論文の内容をもとにしている。西川慧2020「「感情」と「血」の経済−スマトラ島ミナンカバウ村落社会における換金作物の栽培と流通をめぐって」『文化人類学』85(1): 22-41。


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