2023年度第6回白山人類学研究会(対面・オンラインハイフレックス方式)

現代ジャカルタにおける分断と秩序
―路地バリアの普及に関する実証的研究―



久納源太 (京都大学)

日時:2023年12月11日(月)18:15~ (対面・オンラインハイフレックス方式)

 
要旨

 本発表では、インドネシアの首都ジャカルタにおける路地バリアに着目する。 路地バリアとは、ポルタル(portal)と呼ばれる防犯装置であり、住民組織などの地域コミュニティが住宅地の道路に設置・管理する門や障害物を指す。 ジャカルタを含め、大都市圏では郊外化や社会経済的格差の拡大に伴いゲーティッド・コミュニティと呼ばれる高所得者の排他的な居住空間が広がり都市空間の分断をもたらしているという議論が多いが、路地バリアの空間的分布はこれまで実証的に分析されてこなかった。  本発表では、まず、2010年代のジャカルタにおける路地バリアの空間的分布を分析し、「分断」を通して日常的な安全確保を図る活動・装置が社会階層を超えて一般化していることを確認する。 具体的には、OpenStreetMapのタグ・データの目視による検証と現地調査で入手したデータを用いて、路地バリア普及の社会空間的パターンをジャカルタ首都特別州全域で分析する。 特に、ジャカルタの北西部と北東部を中心とした住宅地と商業地が混住する地域では、カンポン(高密度居住地)にも、富裕・中間層のゲーティッド・コミュニティにも路地バリアが目立ち、それが路地バリアの階層横断的な拡散に寄与していることを指摘する。  こうした都市全域での路地バリアの分布傾向を踏まえた上で、路地バリアの設置を正当化する言説の変遷(1970年代~)を分析し、路地バリアの階層横断的な普及は、日常的な安全確保には路地バリアが有効であるという価値観がおよそ半世紀に渡って共有され続けた結果であることを指摘する。 さらに、路地バリアが広く普及し継続的に利用されている要因として、民主化・分権化によりコミュニティを重視する社会政治的志向が高まったことを提示し、これが逆説的に都市全体の公共圏の喪失をもたらしていることを論じる。

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