2023年度第7回白山人類学研究会(対面・オンラインハイフレックス方式)

開拓空間における多民族社会のテリトリアリティ
—インドネシア東カリマンタン州の先住者ロング・ワイと自発的移住者たち—



藤原 江美子 (東洋大学アジア文化研究所)

日時:2024年1月22日(月)18:15~ (対面・オンラインハイフレックス方式)

 
要旨

 インドネシアのカリマンタン島では、現在も他島や他地域から開拓移住者が流入し続けている。 先行研究では、アブラヤシ農園開発政策とセットで実施される移住政策のもとで流入する「政策移住者(transmigrasi)」を主な対象として、先住者との土地をめぐる軋轢が議論されてきた。 そこでは、先住者はその先住性やアダット(慣習)にもとづく土地利用の正当性によって移住者を排除するといった事例が報告されている。 だがその一方で、個人のツテをたどり、開拓の場を求めて流入する「自発的移住者(perantau)」の昨今の実態や先住者との関係についてはあまり明らかにされていない。 本発表ではその一例として、東カリマンタン州の東クタイ県X行政村の事例を報告する。
 X行政村は、焼畑農業を営む先住者ロング・ワイ人が築いたA集落、その次に、同じく焼畑農業を営むクタイ・マレー人が築いたB集落、スラウェシ島ソッペン出身のブギス人が築いたC集落、スラウェシ島のその他の地域や都市サマリンダから流入したブギス人たちが集うD集落の計4集落で構成される。 そこでの先住者コミュニティによる移住者への受容と排除の経緯、移住者による人の噂に依拠した開拓の正当性、土地利用とその認識の差、村長選挙といった点に着目する。
 X行政村では、A集落先住者コミュニティの3集落に対する排除のための民族的テリトリアリティが見られた。 だが一方で、先行事例のような移住者の排除には至らず、先住者テリトリーの境界は薄れ、移住者は流入し続けるという開拓の場の拡大が見られた。 このような開拓空間における先住者と移住者のテリトリアリティは、民族文化的・政治的相違を際立たせるテリトリアリティへとシフトされている点を考察する。

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