2024年度第3回白山人類学研究会(対面・オンラインハイフレックス方式)

文化が政治を動かすとき
-新たなインドネシア・ポピュラー音楽史の可能性-



金 悠進(東京外国語大学)

日時:2024年6月24日(月)18:15~ (対面・オンラインハイフレックス方式)

 
要旨

 文化と政治の不可分な関係はカルチュラル・スタディーズをはじめとして様々な学問分野でしばしば議論されてきた。しかし、その「関係」はあいまいで、そして地域・国の歴史的な文脈によって異なる。  インドネシアでは植民地時代から現在に至るまでその密接な関係が議論の対象となった。とりわけ1998年の民主化においては、少なからぬミュージシャンたちが、学生運動やレフォルマシ(改革)に共鳴して反体制を掲げた。だが、歴史的には、スカルノ「指導される民主主義」期、スハルト権威主義体制期において、多くのミュージシャンが権力に依存せざるを得ない状況下にあった。かれらはいかに政治・経済権力に依存し、そして脱却していったのか。にもかかわらず、なぜかれらは民主主義時代において権力に依存せざるを得なくなってきたのか。それは現代民主主義にいかなる意味を付与するのか。これが本発表の骨子である。
 欧米ポピュラー音楽の規制と民族文化の奨励を後押ししたスカルノ時代に、ミュージシャンたちは政権の意向に従いながらも、面従腹背の実践を行った。スハルト時代には一転して欧米ポピュラー音楽の規制が緩和され、非政治的なロックが黄金期を迎える。1980年代には企業協賛フェスが大々的に定期開催され、ポップ歌手・ダンドゥット歌手は政党の選挙活動に動員された。1990年代にはアンダーグラウンド音楽シーンが台頭し、民主化以降の音楽業界で影響力を増してゆく。その過程で、政府の新たな産業政策の推進役として重要な役割を担いながら、国軍の後ろ盾のもと「表現の自由」を謳歌していった。  本発表は拙著『ポピュラー音楽と現代政治―インドネシア 自立と依存の文化実践』(2023年、京都大学学術出版会)を土台とし、刊行後に浮き彫りとなった反省点(と開き直り)を振り返りながら、今後の研究課題の足がかりとなるものとしたい。  

※本研究会は、人間文化研究機構海域アジア・オセアニア研究(MAPS)東洋大学拠点との共催です。

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